服部 祥子著 「子どもが育つみちすじ」 新潮文庫

本書は精神科医の書かれたもので、著者は大学でも教鞭をとってらっしゃるかただそうである。
この著者のものははじめて読むのだが、タイトルが気にいって借りてみた。

悩んでいる多くの親子と接した経験やご自身の二十数年にわたる親子のみちのりから得たものをもとに、「親と子」に焦点をあてながら子どもがどう育っていくかを述べられている。


第1章では、こころの土台をつくること。幼少時(0〜1歳半)の重要性を説く。作家池波正太郎氏の幼少時のエピソードを例に挙げながらこの時期に基本的信頼感を得ることが述べられている。


第2章では、子どもの身心の発達について時期を区切りながら述べられている。フロイトエリクソンなどの思想を紹介しながら平易なことばで述べられているのでとてもわかりやすい。


第3章では、その時期によって発達の道しるべとなるものについて述べられている。乳児期は親子の絆を結ぶとき。ほほえみ、人見知り、ひとり歩きの意味づけについて。幼児期は自立心と自発心を培うとき。豊かな語りかけが大切などなど。

著者のもとに相談に来られた親子を例に挙げながら、具体的に説明されていく。
ちなみに、学童期は有能感を培うとき。思春期・青年期は自我同一性(アイデンティティ)を培うときだと著者はいう。


第4章では、著者のメッセージ。「生きる力の火種のとうとさ」。レイチェル・カールソンの著作(『センス・オブ・ワンダー』)を紹介しながら感じる心の大切さを説く。


第5章では、著者のひとことエッセイが載せられている。


本書でこころに残ったことばがふたつある。


ひとつは新しい世界へと旅立つ思春期の若者に「今までのノートを閉じて新しいノートを開こう」と語り掛けることば。


もうひとつは、<英知(知性)のチャンネル>ということば。


これは、どういうときにつかうかというと、子どもと共に自然に楽しさが溢れるときに<愛のチャンネル>を入れるのに対して、ぎくしゃくしてハーモニーに欠けると思うときに<英知のチャンネル>に切り換えるといいという著者のことばだ。

<わが子を感情に流されないで、興味と好奇心を抱いてしっかり眺めると、思いがけない発見があり面白さや味わい、時には価値や敬意をわが子の中に見出すかもしれない。知性という第二のチャンネルも親と子の旅路の中でなかなか効力を発揮する>という。


人との関係というのはけっこうむずかしい。ときに客観的にその関係をみつめるとき<チャンネル>という発想はとてもいいと思った。