外山 滋比古著 「頭の旅」 毎日新聞社

著者のプライベートな部分が垣間見られるエッセイ集。

こういう嗜好があるんだ!とか、こういうことをされているんだ!
などという発見がありました。

普通の感覚で、普通の生活を送ってらっしゃるのだとわかり親近感がもてました。学者であり、読みやすいけれどもかたい書物を書いてらっしゃるので、俗世間のことにはキョウミはない!と思っているかた…と勝手にイメージしてしまっていました。

それがどっこい。

いろいろなシッパイもしてらっしゃる。それをさらっと書かれている。

その中で印象的だったのが「ここに原稿を置くな」である。


<ちょっと、というのが、危ないのである。ある新聞社の男子手洗いの台に、ここに原稿を置くな、という大きな注意書きがしてあった。原稿がよごれるというのではない。置くと、置き忘れるというのだろう。何度も事故があって、この警告となったものと思われる。>


本エッセイで、著者はカギを探される。くまなく探したのだがない。その日の行動を振り返り、雨の中を家に帰る。もしかして書店を回ったからそこに電話をしようか…と半ば絶望していると、まさかというところにあったという。


著者と引き比べてはおこがましいが、自分もつい最近車のキーを探しに探しまくった経験があったので、このエッセイを読んでなんだか嬉しかった(失礼ですが)。自分ひとりだけではないんだという安心感。そして、<ちょっと置く>ということの危険性をしみじみ感じた。


しかし。著者の文章はほんとうにわかりやすい。一読して意味が通じるし過不足がない。「江戸しぐさ」などというタイトルがあり、「つい最近流行っていたもんね!」と思いながら読んだのだが、最後のページの「初出」を見たら<『毎日夫人』1982年7月号〜1997年12月号>とあった。文章がぜんぜん古びていないのに驚かされた。