山岸 凉子著 「ブルー・ロージス 自選作品集」 文春文庫ビジュアル版

<この本(漫画)は決して朝の出勤前には読まないで下さい。>

作者には失礼だがこんな<注意書き>を、本書のどこか(帯?)につけたい。
なぜならば自分が朝の通勤時に読んでしまい、朝日を浴びながらズドーンと暗くなってしまったからだ。

重いテーマがあるのだ。

何度か氏の著作は手にとったことがあるのだが、結構考えさせられる。
テーマも決して軽いとはいえない。


本書は6つの短編が収められている。


エトー
星の素白き花束の
化野の…
ブルー・ロージス
銀壷・金鎖
学園のムフフフ


「パエトーン」は太古の昔話の悲劇(ギリシャ神話)から物語が始まり、原子力発電問題へとつながっていく。その切り口がうまいなあと思った。
少女漫画を手にした途端、チェルノブイリ原子力発電所の大惨事から入ったのでは抵抗感が大きいですもんねえ。


心に残ったのは、「星の…」と「ブルー・ロージス」。
これはあまりストーリーを語ってしまうと楽しみが減じると思うのですが、2つの作品の共通点を挙げるとすれば、両者とも主人公がイラストレーターなのですが、彼女の「人間」に対する見方が変化するとともに、今まで描いていた対象物(人物)の描き方が変化するということ。なるほど。表現物というものは、やはり表現者の心象風景が現れるものなのだなと思いました。


もっと直截に言うと、両者とも少女や男性と深くかかわるという経験を通して、相手を直視することができるようになる(偶像化しない)。それはつまり自分の心を偽らないということ。それができるようになり「絵」が変わっていく。その過程が描かれているともいえます。


作者の人となりは全く知らないのですが、本書を読んで少し興味をもちました。

そして今回この記事を書いていて気づいたのですが、山岸凉子の「りょう」の字が「ニスイ」なのですね!