上橋 菜穂子著 「狐笛のかなた」 新潮文庫

うれしいことがあった。それはまたひとり、上橋ファンを見つけたこと。そしてその人から本を貸していただいたこと。

主人公は12歳の少女。人の声が聞こえる<聞き耳>の能力をもつ。それは亡き母から受け継いだもの。

……ここら辺の設定は「獣の奏者」に似ていませんか?(笑)。


この物語は本書一冊で完了しているのでそれほど壮大な物語ではない。とはいっても、山あり谷ありでドラマチックな物語展開だ。
特に、主人公の少女<小夜>と霊狐<野火>との出会いから始まり、お互いを思い合うシーン。相手のことを思っての行動。それらがなんともいえず、けなげで少し物悲しい。


時々思うのだが、この作者の作り出す世界観が国同士のいや人間同士の「欲」を超えて、どうにか「理解」し合えないものかという模索のような気がする。依怙地にならずにいけないものか。わかりあえないものかー。


話はそれるが「狐」と「人間」というと新美南吉著「ごんぎつね」や「てぶくろを買いに」を思い出すのだが、前者は狐と人間がわかりあえない話。後者は母狐は人間=こわいものとしているが、子狐は人間はこわいものではないとしている話。

狐=だますもの。人間=こわいもの。鬼=こわいもの…。などなどそれぞれの立場からいろんな見方がある。ステレオタイプ的に相手を見ている限りなにも変わらない。しかしそのなかにも、そうではないものがあるという発見が物語のなかでされること。それが救いにつながることもある。


本書でいうと「野火」(遠矢)というキャラクターの設定がそうだ。主の命には絶対服従であるはずなのだが、彼はそうしない。自分の意志で命を賭けて行動する。そして彼の言動を信じる「小夜」。その信じるちからのゆるぎのなさがいいと思った。