佐渡 裕著 「僕が大人になったら」 PHP文庫

サブタイトルに「若き指揮者のヨーロッパ孤軍奮闘記」とある。

内容はそのまんま、である。ただ、その指揮者は今「若い」というほど若くはないかもしれない。なぜなら、本書は某月刊誌(1997〜2001年)に連載されたもの(「ぼくが大人になったら」)より編集されたものであるから。著者がまだ30代後半のころから4年間にわたって書かれたものなのである。


僕は、小学校を卒業する時の文集にこう書いています。
「大人になったらベルリン・フィルの指揮者になりたい」
そして今、僕は指揮者になったけれど、
まだベルリン・フィルは降っていません。
つまり、この夢はまだ実現していないのです。
実現するかしないかは誰にもわからないけれど、
僕は今もこの夢を追い続けています。

こんな文章が本書「まえがきに」ある。

このようなことを堂々と述べてしまう(自分の夢を宣言する」)著者。それだけでも佐渡氏の懐の大きさがうかがい知れる。言い訳をしない潔さ。夢に向かって頑張る姿。そしてそれを公言する勇気。


月刊誌なので、佐渡氏がリアルタイムでどのような暮らしをされどのような音楽家活動を進めていかれるのかがわかる。
そして一番の関心事。佐渡氏はベルリン・フィルを降れるのか?


実は自分は佐渡氏に対して特別な感情を持ってはいなかった。この本を読むまではー。本書を読むきっかけも職場の人の机にありたまたま貸してもらっただけ(すみません)。しかし、本書を読んでいるとなんだか「応援」したくなってくるのである。佐渡氏の「熱い」人柄みたいなものが伝わってくるのである。


指揮者としての降り出しは小さな楽団だったけれど、どんどんステップアップしていく。その過程をたどっていくのが実に楽しい。また指揮者としての苦労(オーケストラの団員の方とのコミュニケーション)、言語習得の苦労なども初めて知った。それを明るく書いてらっしゃるのがまたいい。


さてさて。この連載のあった約4年間のうちに佐渡氏はベルリン・フィルを降ることつまり夢を実現させることができたのか?

それはエピローグで明かされる。

結果ー。



かなわなかった……。




しかし。先日CDショップで以下のようなCDが別枠でディスプレイされているのを発見した。


佐渡裕 ベルリン・フィル・デビューLIVE」(2枚組)
ショスターコーヴィチ 交響曲第5番
武満 徹  フロム・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム


そして帯に<「彼が夢見たオーケストラでのデビュー演奏会は、大勝利となった」>とあった。



佐渡裕さんおめでとうございます!


この時のブルーレイ・DVDも出るそうですね(9月22日)。買ってみます!佐渡氏のマエストロぶりを是非拝見させてください。


(あれ。なんだか最後は佐渡氏へのメッセージとなってしまった。すみません)