有吉 佐和子著 「夕陽ヵ丘 三号館」 文春文庫

久しぶりに有吉氏の著作を読んだ。またしても例の現象が起きた。

それは、通勤途中に読んでいて、降りるべき駅を乗り過ごしそうになるということだ。そして、もうひとつは続きが読みたいために、目的地まで時間がかかる方を選ぶということ。つまり「作品世界にはまり、もっと読んでいたい!」現象だ。


579頁という厚い本なのだが、一気に読めてしまう。一流会社(商社)の社宅暮らしの「日常」を描いたものだがー。



その日常の中にドラマを見出し、主婦同士の会話や人間関係(腹の探り合い)、子供の教育問題、子供や先生との付き合いなどの一コマ一コマが丁寧に手に取るように細かく描かれている。


「話に尾ひれがつく」というのは、このようなプロセスを経るのかなとか。人の言葉の受け止め方というのは、その人自身の「背景」(嫉妬やコンプレックス)が大きく左右するのだなとか。子供の信頼関係や主婦同士の信頼関係はこんな風にすると崩れるなとか。ボタンの掛け違えはこんな風に起こるのかも等々さまざまなことを感じさせてくれる小説でした。



有吉氏の『香華』を読んでいて同じことを思ったのだが、親子や主婦同士の会話や、気にも留めない「日常」の中から、書くべきことを掬い出し(ドラマを見出し)、読者を作品世界にに引き込んで「読ませる」ことができるなんて…本当に凄いなあと思った。本作品の場合、時代的にはかなり古いもの(昭和30〜40年代?)かと思われるのだが、現代にも十分通じるテーマでもある。



「あるある。こういうこと!」の連続で実に読み応えのある作品でした。