成長
S子は面と向かってひとに相談することができない子だった。それはひとの顔色を気にするからなのか、自分のことを話すのが得意でなかったのか。それは本人も判然とはしていなかった。
ゆえに彼女とY子との出会いはノートからだった。それはS子からの一方的なものだった。
出会いといってもS子とY子は中学時代から顔見知りだった。生徒会を通じてー。しかし同じ高校に進学しても同じクラスにはなったことがなかった。ただ登下校で話をかわすだけのつきあいだった。
なぜ、S子はY子にそのノートを渡したのだろうか。自分の気にやんでいることを書きつけてー。
Y子とはある程度の距離感があったから打ち明けやすかったのかもしれない。Y子には大人びた面があったからかもしれない。
Y子はS子のそれに対して返事を書いてくれた。それらはS子に対して愛情のあふれるものだった。決して華美なことばはつかっていないけれども。
S子は満足した。そのノートが彼女から渡されるのが待ち遠しかった。Y子のことばを待ちわびていた。
ノートの内容は実に他愛のないものだった。
高校生にありがちなクラスでのちょっとした出来事、勉強のこと、自分の将来のこと。そしてちょっぴり気になるひとのことー。
そんな無邪気なことがえんぴつ書きの大学ノートに取り交わされていた。もちろんそれは大人から見ればの話で、本人たちは大真面目なのであるけれどもー。
しかし、気づくと相談者S子。回答者Y子という役割が固定化していた。
S子の悩みがないときはノートの頁も埋まらず、そんな時はY子の創作した話や彼女の将来の理想像が書かれていた。
そしてある時ー。
ノートの交換がいきなり終わりを告げた。
こんな言葉がY子から投げかけられてー。
「S子ちゃんのことをこれ以上知りすぎるのはよくない」
なぜだろう。どうしてだろう。どうしてお互いを知りすぎてはいけないのだろう。
そんな疑問がS子に次々とわいてきた。しかしその答えを無邪気に聞けるほどS子はこどもではなかった。
―何年かの月日が過ぎたー。
そしてS子は成長した。
あのときのY子にとってS子は力不足だったのだと。それに気づけるぐらいにはー。