上橋菜穂子著 「獣の奏者(そうじゃ) Ⅰ闘蛇編」  講談社

ほんとうにこの著者は、ひとつの世界を作り上げるのがすばらしいと思う。

読んでいる者が描かれている世界をありありとイメージすることができるのだ。その描写力が桁外れにうまいのだろうな。。。

……なんてのっけからほめちぎってしまったのだが。。。


話の内容はこうだ。

<獣の医術師の母と暮らす少女、エリン。ある日、戦闘用の獣である闘蛇が何頭も一度に死に、その責任を問われた母は処刑されてしまう。孤児となったエリンは蜂飼いのジョウンに助けられて暮らすうちに、山中で天を翔ける王獣と出合う。その姿に魅了され、王獣の医術師になろうと決心するエリンだったが、そのことが、やがて、王国の運命を左右する立場にエリンを立たせることに……。>(本書前カバーより)


個人的に本書で心ひかれた部分のひとつは、エリンという少女と大人たちとのかかわりだ。養育者のジョウン。医術の教育者エサル。このふたりが実にいい。子どもであるからといって子ども扱いしない。かといって言うべきところはきちっと言う。是は是。非は非。本人が納得するかたちで話していく。そのときはまだ言えないことは、ごまかさずにそれは今は言えないと伝える。それはエリンという少女が聡明であることの裏返しなのでもあるがー。

エリンの生き物に対する観察力・洞察力。それらが鋭い。自分の経験を次の疑問を解決する力へとつなげていくのだ。

そしてもうひとつは、エリンが王獣を育てることになる経緯とその奮闘ぶりだ。主人公エリンの都合のいいようにはことは運ばない。今まで王獣を育てていた者(トムラ)を押しのけて、彼女がその任務につくことになった。そのトムラとの会話がいい。お互い自分の考えはぶつけながら、王獣への愛情は人一倍ある。どうにか王獣を育て上げていきたいという共通の思いがふたりを徐々に結びつけていく。


エリンの生い立ち。母への思い。母の残した言葉ー。

いろんな疑問や思いを抱きながらエリンは自分の足で前に進んでいく。


はたしてエリンはどんなふううにして成長していくのか。王獣師となれるのか。どこの国の者としてー。

それらは、残念ながら『Ⅱ 王獣編』に続くのだー。

ああ。早く続きが読みたいっ!