迷い道
ある目的地に行こうとすると必ず迷う道がある。
それはどうも私だけではないらしいということに、つい先日気がついた。
すでにそこへ向かうのは4回目。
前回、友人とともにそこへ向かったのだがやはり迷った。
その際、彼女も過去に目的地へすんなり行けなかったということを言っていた。
目的地はものすごく近い。それはわかる。なのにたどり着けない。
そんなとき、決め手になったのは「声」だったという。
そこから発せられる声がかすかに聞こえ、その声をたよりに目的地にたどり着けたという。
そんな経緯もあり、前回はしっかりと頭の中にどこで曲がるのかということを強く強く印象づけ確認しておいた。
……そして先日ー。
その目的地へとひとりで向かうことになってしまった。
最寄の駅で降りる。改札口を出る。左へと曲がる。大きな交差点に出る。
……そこまではよかった。
しかしー。交差点からどちらの方角へ歩き出せばいいかいっしゅんでわからなくなった。
とりあえず歩き出したのだが、どうもにぎやかだ。いつもと違う。
……ということで交差点まで戻った。
看板を見上げる。地名から判断してそちらへと歩き出す。
疑わしかったがある病院の案内がありそこに警察署、消防署の図があったのでそちらであっていると確信し、再び歩き出す。
……そうだそうだ。小さい出版社があったじゃないか。おせんべいやさんもあったっけ。
ふと腕時計に目をやる。
……まずい。いそがなくちゃ!
と思いながら、大きな道をはずれるために右折。
右手に家内制手工業らしき店構えの家。左手にスタイリッシュなマンション。そして○○学園の看板。
……おおー!これだ。これだ。ここを左折だー!
薄暗いなかを歩いてきたが、ここへきて急に元気が出た。
そもそも、この会合に参加するのも友人と会の前におしゃべりできるのが楽しみのひとつなのだ。
その友人が今日は欠席ー。
こころのなかで、つぶやいた。
今日は迷わず行けそうです♪
そんな折、ふと前方に目をやるとなにやら知人に似た人がー。
頭を上のほうに向けながらなにやらあちらこちらに目をやっている。
「Tさんですか。Tさんですよね。。。」
確認する間もなく私は思わず声をかけていた。
Tさんはいきなり自分の名前を呼ばれて驚いたのか、その場で一周した揚げ句こんなことをのたまった。
「どうして。どうしてガーベラさんがここにいるの。どこに行くの」
……ええーっ。それはないでしょう。Tさん!
ここはどう考えても偶然に出会うという場所ではないし、なんどもその会合でお会いしているし、なんといってもTさん。
あなたがお誘いくださったのでしょう!この会合にー。
……となんだか哀しい気持ちになったが、それはTさんが動揺していたことから発せられた言葉だということがすぐに判明した。
なぜなら、Tさんはここら辺一体をかなり歩き回ったらしいのだ。
坂の下に見える遠くのビルを指差し、あっちに行ったら違ったんだよ。
それで人に聞いたんだ。でもわからなくて迷った。
うろうろしていたら、またここに戻ってきてしまったー。
……うわあ。前回の私とまったく同じだ。そう。友人ともー。
方角をたよりに歩いていけば、たいていのところはどうにか行ける。
しかし。なぜかここは違う。
人を迷わすなにかがあるのか。
まっすぐに見える道がまっすぐでないだけなのか。
公園。神社。お寺。マンション。コンビニ。商店。学校。一軒屋。
いろんなものが新旧取り合わさって混在している。
Tさんには私と出会ったことを感謝された。
私もほっと胸をなでおろした。
……ああ。これで遅刻をまぬがれた。
なぜなら、Tさんのお話を聞く会なのでTさんがいなければ始まらないからである(笑)。