小林 竜雄著 「久世光彦 vs.向田邦子」 朝日新書

著者の名は本書で初めて知った。タイトルにひかれて購入。

今まで久世氏の向田氏への想いを綴った本を何冊か読んできた。本書を読んで、その時に知ったいろいろなエピソードが線となってつながってくる気がした。著者の述べる説をまるごと信じるわけではないけれども。なぜなら自分自身も久世氏と向田氏の関係をいろいろ思い描いていたのでその時の両者の気持ちを断定されてしまうのは抵抗があるのでー。

久世氏に関して知らないことがたくさんあり、本書で公私共にどのような生活を送りどのような仕事をされてきたかがわかった。そして向田氏とのかかわり方も。

また興味深かったのは、久世氏と山口瞳氏との関係。向田氏をめぐってけんか。そして時を経て和解という経緯。向田氏っていろいろな人から好かれていたのだということがわかる。

本書は久世氏側から描いた向田邦子像が見える。たとえば、初めは久世氏が脚本(ホームドラマ)の師匠だった…とか。著者はいろんな書物(巻末の参考文献を参照)や新聞を読み込んで、当時の久世氏の考えを推し測っている。それを読んで天国のご当人はどう思われるかはさておいてー。


独立した二艘の船が時に寄り添う。そして離れる。また近寄る…というように久世氏と向田氏が仕事を通じて物理的にも精神的にも近くなったり遠くなったりする様が本書からうかがい知れた。

とてもいい関係だったのではないかなと勝手に想像する。

個人的には、向田氏の乳がんが発見され死の恐怖にあるとき、久世氏を電話で呼び出し朝まで脚本の打ち合わせ(最終回を書いてと向田が頼んだ)を行ったというエピソードが好きである。その時のことを久世氏が書いているのだがその文章が向田氏への想いがつまっていてなんとも言えずいい。


本書を読んで、久世氏の小説(『乱歩』)を読んでみたくなった。