山崎 豊子著 「運命の人 (一)〜(四)」 文春文庫

感動しました。最後は思わず落涙。車内での読書でしたが、朝の満員電車だったため皆同じ方向で立っていたので顔を見られずにすみ助かりました。

これは以前にも書きましたが、今テレビで放映されている「運命の人」のドラマの原作です。今の自分の楽しみ方は先に小説を読んで筋を頭に入れてから、映像を見て二度楽しむというもの。

そんな見方をしていると、作家さんてほんとうにすごいなあと思います。映像なら見れば一発で登場人物の雰囲気・人のとなり・季節・風景や建物の様子などわかるのに、小説だとそれを全部文字で表さなければならない。根気のいる仕事だなあとー。

さらに言えば、この著作の最終巻を見ると巻末に数ページにも及ぶ<参考資料>の嵐。そして取材協力者名がずらりと載っている。尋常ではない資料の数だ。


>>毎朝新聞政治部記者、弓成亮太。政治家・官僚に食い込む力は天下一品、自他共に認める特ダネ記者だ。昭和46年春、大詰めを迎えた沖縄返還交渉の取材中、弓成はある密約が結ばれようとしていることに気づいた。熾烈なスクープ合戦の中、確証を求める弓成に、蠱惑的な女性の影が……。戦後史をといつづける著者・渾身の巨編。(裏表紙より)<<


著者あとがきによれば、<次作として、第四の権力である新聞マスコミを考え、それなりの準備を進めていたが、小説として成り立たせることは、限りなく難しく、長い逡巡の挙句、考え至ったのが、外務省機密漏洩事件だった。先の沖縄訪問で受けた衝撃が発端になったのかもしれない。>とある。

著者の中でいろいろなテーマを持っており、それらを緻密に計算し結びつけて小説として構築していらっしゃる。個人的に沖縄にあまり興味がなかったのだが、本書を読んでこれではいけないという危機感を抱いた。

それにしても、山崎豊子氏というかたは、組織のなかでバリバリに働く男性がある事情で辛酸をなめる→人生を再生するという姿を描くのが本当にうまいと思う。本書を読んでいて『沈まぬ太陽』の主人公恩地を思い出した。


転んでもただでは起きないしたたかさ、強さをもった人。そしてそれを支えるまわりの人。人生である意味失敗をしたとしても、その失敗に真正面から向き合おうとする姿に好感がもてる。自分の行動に言い訳をしない。


また、個人的には第四巻で琉球大学助教授が「米国立公文書館」で調べ物(資料を探す)をする様子が詳しく書かれているのだがその描写にわくわくしてしまった(笑)。莫大な資料から、自分のテーマにそった資料を探し当てるというシーンが臨場感をもって描かれ、勝手に著者の姿を重ねあわせてしまった。