山崎 豊子著 「二つの祖国」(一)〜(四)

途中他の本を読みつつ、全四巻をやっと読了した。第一巻から第三巻(途中)までは、物語が動くので読みやすかったのだが、それ以降は東京裁判の話が中心になってくるため読み進めるのが大変な部分もあった。

二つの祖国ー父なるアメリカ合衆国、母なる日本国ーを持つ日系二世の、日米戦争での苦悩を知ることができた。<日系二世から見た太平洋戦争>という視点を持っていなかったので、衝撃的なことも多々あった。


誠実であろうとするがゆえに、矛盾をかかえある種不器用な生き方の主人公、天羽賢治。なんとかして今の場所から這い上がろうとするチャーリー田宮のような器用に見える生き方。対照的な二人を通してそれぞれの立場から日系二世の生き方を考えさせられた。

二人の違いは幼少期にどんな家庭で育ったかという差が大きいのかもしれない。天羽は家族を思うがゆえに悩みも大きく深い。(それゆえ無意識のうちに縛られている?)。一方チャーリーは若い頃、母と妹と<決別>している。(がゆえに自分の欲求に邁進できる?)。


大きなテーマを抱えた本書。実に読みごたえがあった。物語の世界にどっぷりはまった。はまりすぎて、天羽賢治と弟の忠がフィリピン戦線で再開し対峙するシーンを読んでいる時に、網棚に大切なバッグを忘れてきてしまうという大失態をした。


日系二世が日米開戦と同時に砂漠の強制収容所に送られたこと。そこでの過酷な生活。そこで合衆国への忠誠心をテストされ苦しみを味わった人たち。天羽家のように一家離散に追い込まれた人もいる。


開戦時に偶然どちらの国にいたかで、いた方の国の戦士として戦わねばならなかった日系二世。どちらの国にも疑いの目、嫌疑をかけられてしまう。そんな宿命と戦っている。二つの言葉に通じるがゆえの仕事。そこから生じる苦痛など痛いほど伝わってきた。


そして米国による広島への原爆投下。ここで被害にあった日系二世である梛子の生き方。原爆の情報を統制する合衆国のあり方。原爆症の実態把握。東京裁判での天皇の戦争責任の扱い、戦犯者の裁き方とその家族の様子。いろいろ考えさせられた。


心の支えを失ってしまった天羽賢治の悲劇。せめてエミー(妻)とだけでもうまくいっていたなら、このような結末にはならなかったのではないかと思うのだがー。


今から8年くらい前、ロサンゼルスのリトル・トーキョーに一度だけ行ったことがある。金物屋さんがあったり、日系スーパーがあったりと日系のお店でにぎわっていた記憶がる。あの場所も、戦時下では日系人が追い出され廃墟同然になっていたのだなあ…と思いを馳せた。


また米国に住む息子二人を持つ友人が、「20歳になったら、息子たちの国籍をどちらにするか決めなくてはならない」と言っていたことを思い出した。その友人は日本人で生まれ育ち両親・兄弟は日本に在住。夫は米国人。戦争をするということは、親族に銃を向けることでもある。そのような悩みが到来する日がないことを信じてはいるがー。



なんだかまとまりがないが、以上思いつくまま覚書。


東京裁判天皇制についてはもっと違う書物も読んでみたいと思った。