冬至
冬至にはゆず湯に入る。
ゆずが10個くらい入った袋が浮いている温泉でくつろいでいたところー。
唐突にとなりにいた老婆から声をかけられる。
「これはいいんですよー。ほらこうやって抱くといいの」
といって、ゆずの入った袋を胸のところで抱いて見せた。
「はあー」
とこころなくあいづちを打つとさらに、
「去年はね、湯船のはじにあって抱けなかったのよ。こうしてね、自分の悪いところに当てるといいのよ。こすっちゃだめよ」
と言って、さらにお腹のあたりにその袋を移動させて見せた。
「私はね、腸閉塞をしてね。手術をしたんですよ」
……聞いていないことまで話してくる老婆。
「ほらね!」
……んぎゃーーー!!
いきなりその場で立ち上がったかと思うと、ほほ笑みながら私の目の前に傷跡(下腹部)を突き出してきた。いたわるように腹部をさすりながらー。
……ひ、ひえー。
「ふふ。あたしは86歳のおばあちゃん」
私はなんだかお湯の熱さと老婆の予想外の行動にくらくらなりながら
「いや。それにしてはお肌のつやもよろしくて。。。」
目のやり場に困った末、再び老婆に目をやると湯船の中にからだを戻していたー。
ほどなくして、温泉とは違う場所で老婆が洋服姿で歩いているのを見かけた。
すんごくちっちゃくて(私の三分の二ぐらいの身長)、でもちょいとしゃれた格好をして背筋をしゃんとして歩いていた。
こんな茶目っ気(?)がある人だから、こんなに元気なのかしらんと思ってしまった。
あー。しかし。あの唐突に見せられた半分に分かれた腹部がどうしても脳裏からはなれないー(汗)