齋藤 孝著 「齋藤 孝の 速読塾」 ちくま文庫

「これで頭がグングンよくなる!」という言葉がタイトルの下に書いてある。


本書は速読「術」ではなく速読「塾」。第1講から第5講まである。著者いわく5回分の塾の授業に参加した気分で読んでみて下さいとのこと。とても読みやすい。そしてとても刺激を受ける本である。


速読がしたいわけではないが、もう少し早く読みたい。いや正確に言うともっともっと本を読みたい。そのために今よりもう少し早く本を読めたら…程度の願望である。そんな自分にもなるほどこれはいいなと思うことが多々あった。また本と向き合う姿勢も学んだ。

以前「本にはどんどん書き込みをし、必要とあらばページを破る。そのようにして本を活用し知識を自分のものにする」という記述を違う著者(中谷彰宏氏)の本でだが読んだことがある。

齋藤氏もやはり本はかなり汚されるということがわかった。 


例えば<私は自分が所有する本であれば、どんどん汚しながら読んでいます。というか所有する本でないと汚せないので読めません。キーワードを丸で囲み、「どこでどうつながっているか」矢印で引っ張ってしまうのです。><いいと思うところは本のページを折ることもあります。まあまあ面白いところは、ページの下端を折り、ものすごくいいと思うところは上も折っていきます。><そして折ったページは、重要だと思う文章の上に赤や青のボールペンで二重丸、三重丸で印をつけておきます。>


氏が三色ボールペンを使うというのは有名であるが記しておくと、<客観的に最重要な箇所は赤><まあまあ重要なところは青><主観的に面白いと思ったところは緑の線>をひきながら読む。


何のために速読・多読をめざすのか。最終的に自分がめざす姿はどういうものかということを第1講では述べられている。そして第2講からは速読の具体的な方法が書かれている。本書のいいところはその方法だけではなくそれをすることで何を得られるのかということが具体的に書いてあるところだ。


以下、自分が印象に残った部分を引用しておく(いい引用文を見つけるという観点で読むのも効果的だそう)。


<ヘリコプターで黄金の1ページに降り立つ>というイメージで本を読むことをすすめている。


<大事なものも、大事でないものも、ひとつひとつすべて背中に背負いながら、地上を一歩一歩進む読み方はもうやめましょう。私たちは著者ではありません。著者は一文字ずつ進まなければなりませんが、私たちはその苦労を全部背負わなくてもいいのです。>

あまり細部にこだわらずに大まかに内容がつかめればいい…と肩の力を抜いて読めそうなうまい例えである。



<情報の完璧さより大切なのは考え方です。何かと何かを関連づけ、自分の経験とすりあわせてオリジナルの何かを考える、あるいはアイデアを出せることが重要だと思っています。>

<そのためにはいろいろな問題を並行的に置いて、考え続ける習慣が必要です。本の同時多読主義というのは、アンテナを何本も立てているのと同じです。>

本を読む目的。それは氏によれば読書のための読書ではなく、自分の考えを深めたり広めたりするためのもの。つまり「考える」ためのひとつの手段であるから「二割」しか読んでいなくても、その本の大事なところを「理解」できればよいという考えが根底にある。



また<著者勝負>で読む。これは同じ著者の作品を続けて読みスタイルを理解すること。それにより著者の理解の仕方、表現の仕方、切り口に慣れてくるので、そのこと事態が自分にとって栄養になるという“おまけ”がつくとのこと。 


また勇気をもらったのは次の一文。


<大切なのは、自分がゲットした概念を間違ってもいいから使ってみる、ということです。使っているうちにだんだん慣れてきて、正しい使い方ができるようになるます。とにかく概念を自分のものにするには、読んだらすぐ使ってみないといけません。>

またぜひおすすめしたいのは<本を一冊読んだら、必ず引用文一文と自分のエピソードをひとつからめてA4判程度の紙に打ち込み、読書ノートのような形で書き留めておくこと>だそう。

読んだらしゃべる(書く)ということを習慣にしておくといいという。


最後に本書を読んでいて個人的に読んでみたくなった本を覚書。

ツバイク『ジョゼフ・フーシェ』『バルザック』『マゼラン』
メルロ・ポンティ『世界の散文』他
ニーチェツァラトゥストラ』『この人を見よ』
巻末には「本を選ぶためのブックガイド・リスト」が収められ、著者が強く言いたいところは太字になっている。とても親切な本でもある。