諸田 玲子著 「狐狸の恋 お鳥見女房」 新潮社

「お鳥見女房」シリーズ第四弾である。このシリーズどこから読んでもいいとは思うが、やはり順番に読んだほうがよい。


まずは、第三弾で気にかかっていた矢島家・長男久太郎の縁談話。
紆余曲折を経ながらも珠世の知恵もあり、どうにか収束していく。
その顛末が面白い。


こういう時代物の小説を読んでいると、その頃の婚姻というのがまさしく家と家。家の格。身分というものを抜きにしては語れないということを強く思い知らされる。自由に恋愛して結婚できるということは素晴らしいことだと痛感させられる。当たり前に思ってはいけないのだとー。


久太郎と結ばれることになった女性。男勝りで自分の意志をはっきりもち行動に移す。
反対に久太郎は長男らしく何事もそつなくこなし、周りのことをよく見きわめ、突拍子のないことはしないタイプ。
そんな正反対にも見える二人がひかれあっていく様がなんともいえずいい。久太郎の一本筋を通す生き方がカッコイイ。
今後彼が彼女をどう調練していくのか。お手並み拝見というところである(次巻で読めるのか!?)。


長男と並行して次男の縁談も進んでいく。

矢島家の登場人物の人間関係がどんどんつながりからみあっていく。

また、他家へ嫁した次女君江の妻女ぶりもうかがえてなかなか読み応えのある一冊である。



最後に珠世の肝っ玉ぶり(?)を引用。

<もし久太郎が恵以に特別な感情を抱いているなら、二人でいるところを母親に見られてはとまどうだけだろう。動転して、思いも寄らぬ方向へ話が転がってしまう心配もある。久太郎が己れの気持ちとしっかり向き合い、心を定めるまで、よけいな口出しは控えたほうがよい。>


<「怪我は、するでしょう。痣やたんこぶや擦り傷や……それなら日が経てば治ります。それより、もし母の顔を見て途中で止めてしまえば、どうなりますか。持って行き場のない鬱憤がしこりとなって残るやもしれません。しかも一番見られたくない母に見られてしまうのですよ、それでは男の面目が立ちません」(中略)「大丈夫。あの子たちはちゃんと限度をわきまえていますから」>


家族の安否を心配し、兄弟喧嘩にこころをくだきながらもそれをじっと見守る。言葉ではそういいながらも心中は穏やかではない。自分が出て行って行動を起こしてしまったほうが楽だとも思える。しかし珠世はじっとこらえる時といざとなったら自分が行動する時とをしっかり見極めている。見て見ぬふりもしてくれる。相手の自尊心を傷つけない。来るものは拒まずー。


懐の大きい頼れる女性である。だんだん彼女のすごさがわかってきました(笑)。


さあ次はいよいよ第五弾!矢島家はどんな季節を迎えるのか!?