諸田 玲子著 「巣立ち お鳥見女房」 新潮社

「お鳥見女房」第五弾である。

ここには人生の節目が描かれている。「生」と「死」と「婚姻」がー。

(ここからはネタバレなので読んでいない人はご注意を!)

まず多津と源太夫。とうとうお子を授かりました!。そしてその名付け親が久右衛門。多津の「多」と自分の「門」で「多門」。元気のいい男児の誕生と裏腹に、久右衛門の旅立ちが描かれる。

多津は矢島家で過ごすうちに宿敵だった源太夫と連れ添うことになり、彼の連れ子5人の継母となったわけだが、自分と源太夫との子どもを産むにあたりいろいろ気をつかっている。特に末っ子のまだ幼い雪に対してである。雪のさびしい気持ちを理解し受けとめてあげる珠世の配慮がすばらしい。おもわずうるっとくる。子どものちょっとした心の隙間をよくご存知!と思うエピソードがあった(絵馬をなくしてしまう場面)。


そして矢島家長男・久太郎と鷹姫・恵以の祝言。それにまつわる悲喜こもごも。ご隠居さまと新妻恵以とのやりとり。似たもの同志なのか二人のやりとりがぎこちなくて面白い。恵以は今まで未知の世界だった「家事」に新鮮さを感じ、素直にお姑さん(珠世)のやり方を見て習おうとする。自分のやり方がないがゆえにうまくいくこともある。


そして本書の一番の目玉は、なんといっても今まで脇役だった珠世さんのほのぼのとしたときめき話だろう。一家の主婦であり4人の子どもの母でありながらも、珠世とて一人の女性である。大きく道を踏み外すということはありえないだろうし、だんなさんを大切に思っている珠世がどんなふうに「ときめく」のか?と興味津々だったのだが、うまくまとめてくれました!作者。


<珠世は己の心に問うてみる。一緒にいたとき胸をときめかせたのはなぜか。美しいと言われて頬を染めたのはなぜか。二人で遠出することをためらったのはなぜか。賢次郎を好もしく思う気持ちがなかったとは言えない。それは、伴之助や家族を思う気持ちとはまったく別のものだった。そしてそれは、一瞬にせよ、甘やかな胸のはずみをもたらしてくれた。かたちになる手前の、蛹のようなものではあったがー。>

ああ。それで珠世が主人公の話のタイトルが「蛹のままで」なのか!と合点がいった次第です。


このシリーズはこれで終了でしょうかー。終わってしまうのはさびしいですが…。

ここまで楽しませてくれた作者に感謝です!