石村 博子著 「たった独りの引き揚げ隊」 角川文庫

サブタイトルに【10歳の少年、満州1000キロを往く】とある。


<1945年、満州。少年はたった独りで死と隣り合わせの曠野へ踏み出した!>
その少年は、のちに、
<41連戦すべて一本勝ち。格闘技(サンボ)で生ける伝説となり、日本柔道界・アマレス界にも大きな影響を与えた>という。名前はビクトル・古賀。


……すみません。サンボという格闘技も知らなければ、名前も存じ上げていませんでした。…


そんな自分であるが、本書は10歳の少年が満州からひとりで引き揚げて来る様子が描かれ、その様があまりに壮絶で引き込まれた。これは本当に事実?と思う場面が多々ある。ドラマならあるかもしれないけど…。


しかしこれはビクトル・古賀氏への取材から書かれているものであるから事実なのである。


10歳の少年の知恵たるやものすごい。引き上げの列車から取り残され、線路に併走している道路を往くのだが、そこにもコツがある。民家にお世話になる時も、煙突から立ち上る「煙」を観察して、どの家に行って助けてもらうかを決める。日本に帰るために生き抜くためになんでもやる(死体から靴をもらうなど…)必死な姿。


目をそむけたいものにも遭遇している。そしてそこから学んでいく。


<そんなときに(※戦闘の只中)死んでいったのは、命を惜しんで逃げたり叫んだりしている人間だった。泡を食って走り回っている人が死んでいく。あぶないときは落ち着きを無くした人間から死ぬということが、子ども心に理解できた。だから、落ち着け、慌てるな。ピンチになっても余裕をもってにっこり笑えと、ずっと自分に言い聞かせていたような気がする>   
注:※は引用者によって追記



……10歳にしてこのようなことを学ぶなんてすごすぎます……。


生きるための知恵と勇気をもって、力強く前に進む少年の姿に圧倒される。


この少年は日本とロシアの混血。父(仁吉)方と母(クセーニア)方の家の歴史からすると<サムライ>と<コサック>の血が流れているといえる。


本書はコサックについても詳しく書かれており大変興味深かった。