W.ランゲ=アイヒバウム著 「天才」 みすず書房


よく人は「あの人は天才だ」と口にするが、天才とはいったいどんな人のことをいうのだろう?
そんなことをふと思った。それでこの本を手にとってみた。今読んでいる漫画本にも「天才」という言葉が出てくるし(笑)

格言でも「天才とは……」というのがあり、個人的には「天分」プラス「努力」というイメージがあり、天才に共通する絶対的な性格というのがあると思っていた。

しかし、それは違ったようである。


>>天才は静的・絶対的なものでなく、力動的・相対的だという新学説は、いわば天才問題における相対性理論のようなもので、旧道をまもるのがすきな頑固な人たちの反対にあうかもしれない。けれども古い道は消えなければならないのが運命である。<<

……天才問題……そういうのが議論(?)されているんですね。

そして、さらに本書では次のように述べる。
>>真実には、天才とは「関係」にほかならない。人間に対する関係にほかならないのである。<<

天才とおぼしき人を独立した客体として解剖台にのせられ、魂をひきぬかれて観察されること自体、そこで見られるのは「天才」とはかけはなれている。天才という「もの」を頭でこねくりまわしていると指摘する。

また、名声についても言及する。それは非常に複雑なさまざまな力が及ぼされている。その人自身の業績もさることながら、感情的な印象、ひいき、信頼、盲従、渇仰、暗示、賞讃、時代精神、ときとしては群集心理、まわりの情勢などいろいろ組み合わさってくるという。それには「偶然」や「幸運」さえもー。また、その名声は直線的に上昇するものであるとするのは単純でしろうとくさい、とも。

本書では、数多くの天才を挙げその名声についてどんなコースを描きながら上昇し、頂上にとどきさらにそれを維持し長いときを経て曲線が変化するかを考察している。

個人的には、天才グループを12に分画して特長を考察しているのが興味深かった(第5部「天才と文化」より)。そこに属するであろう過去の人物を列挙してあるので、その人物の作品からその人自身を想像する楽しみがあった。

「天才と価値」「天才と名声」「天才と天分」「天才と狂気」「天才と文化」の五つの切り口から天才について考えることができた。

*タイトルの横に<創造性の秘密>とある。
*訳者は島崎敏樹高橋義夫