重松 清著 「その日のまえに」 文春文庫
本書は「死」を真正面から描いた短編集である。
著者のことばを借りれば(文庫版のためのあとがきより)<「生きること」と「死ぬこと」、「のこされること」と「歩き出すこと」を、まっすぐに描いてみたかった。>作品の集まりである。
短編でありながらどれも深いところまで考えさせてくれる。結論がないものもある。でも、考えることが大切だと思わされる作品集だ。
以下の7つが収められている。
ひこうき雲
朝日のあたる家
潮騒
ヒア・カムズ・ザ・サン
その日のまえに
その日
その日のあとで
最後の三つ。
「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」は連作。44歳でこの世を去った妻(母)の死をめぐっての夫とその息子の日常が描かれている。そして本書の最後に収められている「その日のあとで」には、この本を最後まで読んだ人にしかわからないちょっとした仕掛けがしてある。
本書を読み通すのは正直きつかった。作品のなかでであっても誰かの死について考えるのはつらい。死というのが現在間近かに差し迫っているわけではない自分にとってさえそうなのだから、もしもそのような体験がある人(渦中にいる人)が読んだとしたらー。
ある人から手渡されたのがきっかけで読み始めた本だった。死や生について考えたくて手にとったわけではない。
けれど、読後ー。
日常に追われ、日々の生活があたりまえになっていたことに気づかされた。
こうして本が読めること。感想を書けること。こんなことにも感謝の念を抱いてしまった。