星 新一著 「明治の人物誌」 新潮文庫

あのショート・ショートで有名なかつSF作家でらっしゃる著者がこのようなタイトルの本をー!?

不思議に思い本書を手にとってみた。

すると、理由はすぐに判明した。


なーるほど。本書にとり上げられている10名の方々は、著者の父親・星 一氏(星製薬創業・社長)となんらかの形で親交のあった方たちだったのだ。


その10名とは。。。

中村 正直
野口 英世
岩下 清周
伊藤 博文
新渡戸 稲造
エジソン
後藤 猛太郎
花井 卓蔵
後藤 新平
杉山 茂丸
 


……そうそうたる方たちである。すでにいろいろな人によって伝記として本に著されている人もいる。個人的には初めて知った人もいる。


伝記(偉人伝)といえば、必ず学校の図書室にシリーズとしてあった。しかし個人的にはあまり積極的には読んでいなかった。

なぜならそのなかに出てくる人は、自分とかけ離れていてすばらしくて才能があって努力家で。君たちもこうなろうこうしよう……と思わなくてはいけないと勝手に思っていたからかもしれない。


なので、今このような本を手にとるのはいささか自分でも意外である。しかし手にとったら最後(!)。一気に読んでしまった。


なぜならおもしろい!さすが著者。
とりあげた人についてすぱっすぱっと切り込み、膨大な資料を読み込んだ末「ここは!」と思うところを抽出して書いてくれている(のがわかる)。情緒的ではなく記録的。無駄がない。

であるから。。。ここにとりあげられた人の半生をあらかた知っている人にとっては。。。あまり新鮮味はないかもしれない。


実際、私も野口英世については渡辺淳一著『遠き落日』を既読だったのでそれの焼き直しのようであった。が。コンパクトにまとめられた本書は小説と同様、過不足なくその人の半生が綴られているように思った。もちろん野口英世に関してだけの感想であるが。


そして。もしここにとりあげられた人の伝記を少年少女時代に読んだだけ……という方にはおすすめ!


子ども向けには書けない大人の事情などが書いてあるので、その人物像に厚みがでる。そういう類のエピソードから、彼らをより身近に感じることができる(かもしれない)。もちろんそれらを差し引いても、ある時代を生き日本や世界の創生のために働いた人々であるので読んでいて楽しいし勇気づけられたり感嘆させられたりする。

すばらしい人がいたものだ、と。。。


この方たちのおかげで今の日本(世界)がある。。。といっても過言ではない人ばかりである。


個人的にもっとくわしく読んでみたいと思ったのは、伊藤博文新渡戸稲造、花井卓蔵、後藤新平氏らである。志が高くしかもそれに実行力が伴っている。私利私欲ではなく、公のために何ができるか何をすべきかを常に考えている。

むかしはお札に顔写真がのっており(伊藤、新渡戸氏)子どもながらに親近感を覚えたものだが、今はあまり思い出すことがない。最近では札幌の時計台(旧・札幌農学校)の資料室で新渡戸氏の学生時代のノートを見たぐらいである。そのノートの字が実に丁寧で驚いた(授業用のノートを寮に帰って清書したそうである。昔の人はほんとうに勤勉ですね。。。)


著者の父親に対する思いから本書は書かれたそうであるが、読者である自分はそういう思いを感じつつもそれとは別個に、とりあげられたその人の半生に興味を持って読み進めることができとても楽しい読書だった。