エーリヒ・ケストナー作 「点子ちゃんとアントン」 岩波少年文庫
点子ちゃんがかわいい。実にかわいい。天真爛漫というのか子どもらしいというのか。
アントンがけなげ。貧しさにもめげず病弱な母親のためにがんばる姿がとくにー。
そんなふたりと犬(ダックスフント)のピーフケとのやりとりがとってもいい。
「折りたたみ式の小型船の大西洋横断ごっこ」をふたりでする場面など笑ってしまう。
「そうだ、アメリカ大陸発見ごっこをやろうよ。ぼくがコロンブス」
「いいわよ。あたしがアメリカ大陸ね。ピーフケは卵よ」
点子ちゃんの発想がとんでもないのだが、それにアントンはつきあう。そしてアントンが困っているときは点子ちゃんが陰ながら助ける。その逆もある。貧富の差を越えていいコンビなのだ。ちなみに点子ちゃんは社長令嬢(笑)。
そして出てくる大人が様々。
いい人も悪い人も、欠点のある人もそうでない人も出てくる。
しかし本書の中で彼らは罰せられたり、反省したりする。
子どもも大人もいろんな役を与えられ、作者の意図するところを伝えるためにお話という表現形態をとっていることがわかる。
個人的には先に思想ありきだと思う。本著者の場合。
そう感じるのには本書のなかに答えがある。
というのは、お話→立ち止まって考えたことという順番で、必ず著者ケストナーによる考えが書かれているからだ。
そこではお話のなかでの登場人物の行動についていい点を認めたり、逆にその危険性を指摘したりするのだ。
そうやっていくつかの掌編があつまりひとつの作品ができあがっている。
話が変わるが、私が子どものころ(5歳くらい?)、家にあった本で何度も読み返していた本がある。
題名は忘れたが、内容はいわゆる道徳的なもの。
たとえば、財布を落とした人が警察に行って財布を落としたことを告げる。そのなかにいくら入っていたかを警官に尋ねられ、欲を出して高い金額を言う。すると届いていた財布ではないということで結局財布が手元に戻らずお金も失った、というような話。
そのお話の横に<おうちのかたへ>という小さな文字で(赤色だったか?)なにやら数行書かれているのである。
そこには、お子様には<うそはいけない>ということを教えましょう…というようなことが書いてあった。
そこの部分を読むのがおもしろかった。
へー。このお話はそういうことが言いたいのか……と思っていたかどうか(笑)。
……そんな大むかしの体験を思い出した。本書はそんな構成の本である。
本書は楽しみながら読める。そして、著者の立ち止まって考えたことは読まなくてもいいとはじめにことわりがある。
でもでも。
セットで読むとやっぱりいい。
著者の子どもへの思い、世の中への思いがストレートに伝わってきて深みのある作品に仕上がっていると思うのだ。
大人にも是非読んでもらいたいと思える一冊。