向田 邦子著 「阿修羅のごとく」 岩波現代文庫

コワイ本である。四人姉妹そしてその両親の生き方・恋模様が描かれている。なぜのっけから「コワイ」などと言うのか。「女」の情念みたいなのが描かれているからと答えたい。以前断片的にドラマ(再放送)を見たことがあった。その時も「おそろしいー」と思ったことをふと思い出した。

それはこんなシーンだ。

 

 ●竹沢家・茶の間
    恒太郎のコートにブラシをかけているふじ。
    ふじ、小学唱歌をのんびりとうたっている。
  ふじ「でんでん虫々
     かたつむり」
    ポケットの中からミニ・カーがひとつ、ころがり出る。
    ふじ、黙って、手のひらにのせてしばらく見ている。
  ふじ「お前のあたまはどこにある」
    ふじ、タタミノ上を走らせたりする。いきなり、そのミニ・カーを襖に向って、力いっぱい叩きつける。襖の中央に、食いこむようにうに突きぬけるミニ・カー。おだやかな顔が、一瞬、阿修羅に変わる。
  ふじ「角出せ
     やり出せ
     あたま出せ」
    SE 電話がなる
    すぐいつもにもどって、
  ふじ「モシモシ竹沢でございます。―ああ咲子、あんた元気なの?」

補足すると、この「ふじ」という人が四人姉妹の母親であり、夫である恒太郎の妻である。このミニ・カーは夫が懇意にしている女性の子どもを象徴する物である。


ふじの内面にはひとことも触れてはいないが、ふだん優しく節度ある人が、いきなりミニ・カーを襖に投げつけものすごい形相になる…想像するだにオソロシイ。その後はまた普通に戻る。その切り替えの早さ。普段自分の思いを表出せず怒りなり疑惑なりを心の奥にひそめている分、コワイのだと思う。キーキーキャーキャーやっている方がコワサの点では負ける。


4人姉妹のいろいろ。これは話題は尽きないものかもしれない(覚書 長女…綱子  次女…巻子  三女…滝子  四女…咲子)
性格も違うし、姉妹が集まればこんな感じだろうなあ。四人いれば仲のいい人そりの合わない人といるだろうし。一番身近で気になってしかたない存在で、喧嘩や嫉妬もしてしまうのだがやっぱり姉妹の不幸は見たくない。そういった気持ちがよく伝わってくる。


4人姉妹といえば『若草物語』。昔読んだけれどもはハマったなー。そして『渡る世間は鬼ばかり』。これも4人姉妹。いや、こちらは5人姉妹だったか。そして今。柴門ふみさん原作の『華和家の四姉妹』(ドラマ見てます)。

4人姉妹の性格を分析(類型化)してみるのもなかなか面白そうですね!なにか共通点が見つかるかな。


話がそれました…。


向田邦子氏。読んでいてうなりまくりでした。パズルのピースをひとつひとつはめこみながら、気がづくと大きな絵になっているそんな印象をもちました。一つの出来事が次につながっていく。またある人物を描くのに言葉だけでなく、動作、食べるもの、しゃべり方、癖、着るもの、職業…などからその人の性格が理解できるのだということがわかります。長い台詞がなくテンポよく「間」と「話す順番」と「簡潔な説明」で緩急をつけていて読者をひきつけます。自分などはあるシーンで鳥肌が立ちました(2か所ほど)。


マイ向田ブーム。まだまだ続きそうです!(笑)