向田 邦子著 「一話完結傑作選」 岩波現代文庫

向田邦子シナリオ集Ⅵ」である。

以下が目次

巻頭エッセイ

一話完結傑作選
  母の贈り物
  母上様・赤澤義雄
  花嫁
  眠り人形
  びっくり箱
  当節結婚の条件
  愛という字


デビュー作ーダイヤル110番
  分け前
  しみ
  万引部隊
  欲の皮

附録
解題

全作品解説
年譜ー向田邦子とテレビ・ラジオ
向田邦子シナリオ集」全巻構成
参考資料

向田氏の作品以外にも、附録や解題など魅力的なものが載っていた。というのも「附録」には「ダイヤル110番」の台本(昭和36年のもの!)が写真で載っている。脚本家ご本人は台本を捨ててしまったらしく、これは演出家の方の個人所有のものを提供してもらったとのこと。苦労の末入手したという経緯が解題に書いてあった。

某出版社で「映画ストーリー」の編集部員として働いていた向田氏だが、スキーに行きたいがために(つまり小遣い稼ぎ!)で始めたシナリオライターというアルバイト。デビュー作を読むことができ嬉しかった。タイトルのつけ方が短く「そのものずばり!」という感じがするが、まだ駆け出しなのだからうなずける気もする。

本書の中でこころに残ったのは、「びっくり箱」。母と娘の関係性、お互いの存在をうっとうしく感じながらもどこか心のよりどころにしている感じがよかった。

「母の贈り物」。これはいつだったかその当時(1976年!)のではなく違う役者さんが演じていたものをテレビで見たことがあった。たしか竹下景子が母親役で出ていたと記憶している。これもよかった。結婚を明日に控えた1組のカップルが、母親に振り回される。そこにけんかあり涙あり。親子の情を感じられる話である。結婚の際に自分が「自分の両親をどう思っているか」ということは案外重要なことかもしれないと思った。その後の夫婦生活を営んでいく上において。

「母上様・赤澤義雄」は、どんでん返しが面白い。向田作品が好きな理由に意地悪な人が出ていないということが挙げられるかもしれない。まっすぐで正直ででもうまく自分の思いが伝えられなくて、誤解が生じたり行き違ったりする。しかし基本的には憎めない人たちが出てくる。また自分の非を認める潔さが見られ読んでいて気持ちがよかった。

また結婚話も題材としてよく扱われているが、「結婚」=「若者」だけでなく、高齢者同士の結婚なども描かれていてなかなか面白い。親子関係、家族の日常など悲喜こもごもをうまく掬いとって描いている。短いシナリオでも話に起伏があり実に引き込まれた。

向田邦子シナリオ集」は全6巻あるが、すべてに「解題」が巻末にあり、当時のテレビ界の様子や作品の裏話等が書かれておりより作品の理解につながった。