向田 邦子著 「寺内 貫太郎一家」 岩波現代文庫

向田邦子シナリオ集Ⅴ」である。

石屋の三代目「寺内貫太郎」一家の日常を描いたドラマである。

ドラマの内容は知らずとも悠木千帆(現・樹木希林)が「ジュリー」と悩ましげに(?)腰をくねらせて言う場面とか、小林亜星扮する貫太郎が息子周平(西城秀樹)を張り倒す場面とか、お手伝いさんのミヨちゃん(浅田美代子)が少々不安定な音程で歌う場面を「懐かしのテレビ」のような番組で観たことがあるのではないだろうか。

かなり昔の人気テレビ番組だったが、自分は「母親」が中心のホームドラマを観ていたクチなので、この番組は見ていない(実は、子供のころこの手のホームドラマがお気に入りだった)。
シナリオを読むと、子供にはドラマを理解するのは少し難しい気もした。本当の意味での貫太郎の良さというものが理解できる年頃ではないからだ。表面的に楽しむのならいくらでもできるのだろうけれどもー。


父親の娘に対する愛情や思い、嫁と姑との関係、片足が不自由になってしまった娘の気持ちや周りの思い、その娘の結婚(子連れの三十男)をめぐる話などなどを軽妙にそして情け深く描いていく。


この頑固で気短で、親にも子にも容赦なくどなったり張り倒したりする貫太郎なのだが、情が厚く涙もろい。照れ屋なのである。この夫を上手に立てつつ要所要所では押さえている妻の姿もいい。


そして家族が集う場として「ご飯を食べる場面」。ここの描き方もよく、どんなおかずをどんな風に食べるかでその人物を描いてしまったりする。そのおかずも昭和の食卓という感じでとてもおいしそうなのである。

向田氏も料理上手で知られているが、実際の台本にはその日の寺内家の献立をあらかじめ書くようになったり、視聴者から作り方の問い合わせがあったというエピソードもあるらしい。


さて本書に戻るが一番面白かったのが第11回目の台本である。なぜならこの回は「生放送」(時代を感じますね!)で、その様子が台本として載ってるのである。なかでも、貫太郎がいつものように妻の里子をぶっとばしたら、里子役の加藤治子さんが茶ダンスにぶつかり動かなくなり、貫太郎が「加藤サン、すみません、大丈夫ですか」というと娘役の梶芽衣子さんが「亜星さん、ダメじゃないの。加藤サン…じゃないでしょ。里子!里子!」と言う。貫太郎は「だって」と答えると息子役の西城秀樹が「ナマ!ナマ!」と言い「あ、ナマか『里子!』」と貫太郎が続ける。するとミヨ子役の浅田さんが「なまだってなんだって、命には替えられないわよ。お医者さん、よんだほうが」……と続くのである。


今の時代では考えられない(笑)。臨場感のあるスリルのあるドラマである。なにせ役者の命ががかっているのだからー。

本書は全39話のうち、11話を収録したもので、それ以外の回についてはあらすじが載っている。


個人的な好みを言うと、もう少しシリアスな話が好きであるが、日常の何気ないひとこまを切りとってそれを人様が見て笑ったり泣いたりするドラマを作れるってすごいと思った。家族でのちょっとした会話とかいざこざとか笑った話とかその場その場で消えてしまってあまり記憶に残らないものだと思うから。貫太郎が向田氏の父親をモデルにしていたとしてもー。


まあ、これには裏話があるのだがそれについては次回書くつもり。すみません力尽きました・・・。