井上 靖著 「愛」 角川文庫

薄い本。一気に読めた。引き込まれた。三つの短編が収められていた。

心に残ったのが『結婚記念日』。初めは「賢者の贈り物」みたいな結末?と思いながら読んだ。日常の夫婦のひとこまを描いているのだが、二人の関係性とか会話が興味深くなんともいえない滋味がある。

ミステリータッチで描かれる。


『石庭』もラストのどんでん返しが良かった。京都のお寺の庭の描き方も!男性の立場で物語が進んでいくのだが、最後はー。


…すみません。もう1作品あったのですが、記事を書く前に図書館に返却してしまい書けず。でも面白かったことは間違いないです(説得力なしですね 汗)。思い出したら追記します!

有吉 佐和子著 「断弦」 文春文庫

<没後30年 名著復刊>と帯にある。

著者が23歳の時に書かれたもの。その筆力が本当に凄い。テーマも渋い。伝統芸能についての考察。しかし、出てくる主人公「瑠璃子」の考え方は若者特有。なので、やはり著者が23歳ならではの内容なのかもしれない。


地唄というものはよくわからないが、本書を読んでいてふとあることを思い出した。芸の継承ということで、今芸能で取り上げられている花柳流の騒動だ。家元とそのお弟子さんとの関係の難しさ。いろんな思惑や嫉妬が渦巻いているイメージ。本著においてもそのようなことが描かれている部分がある。


本著は父親と娘との関係が描かれている。同著者の作品では、今まで母親と娘の関係を描いたものは読んだことはあったが、とても新鮮な感じがした。また伝統芸能を海外で演じる場合、どこまで脚色するのかなど考えさせられる部分があった。


以下心に残ったところを覚書。


<愛しつつ抵抗する。反逆しつつ愛する。伝統ーそれは芸の伝統ばかりではなく、人間が世々を経て生きるということだーを、生きているまま継承する正しい方法は、これなのだ。伝統という言葉をわれわれは否定的な意味でしか用いることがない、と言ったエリオットの言葉を瑠璃子はふと思い出していた。>


<私が菊沢寿久の許で学んだものを、咀嚼して、やがてこの人との生活の中に溶けこましてみよう。そうなっても、おそらく史郎はそれと気付くまいけれども。寿久が男であり、史郎が男であり、そして私が女だということは、意味のないことではない。夜道を、二人でいることを意識しながら歩いて、瑠璃子は幸福だった。>


璃子地唄に一時期熱を上げていており、師匠の寿久から養女にならないかと言われ、引き受けよう…とまで思っていたのだが、恋人の史郎が彼女の様子をあまり感心しないという顔で「見守って」いてくれていたのは本当に良かったと思う。

9年

ふと、以前書いていた「ガーベラ・ダイアリー」(goo)にアクセスして、一番初めに書いた記事を読んでみた。


書いた日にちに目をやると、「2005年9月15日」。今からちょうど9年前ー。

9年前の自分は、今現在の自分がこうなるとは予想だにしなかった。

ただただ、その日を生きるのが精一杯だった。



あの頃やっていた数々のお稽古事。友人関係。生活環境。
振り返ってみると、9年という月日はいろいろなものを変化させた。


そして一番の変化は自分の置かれている状況。心境なのかもしれない。


9年は長い。小学校に入学した子が中学校を卒業する年月と同じだ。義務教育終了。


はたして、自分はどこまで成長できたのか……突き詰めて考えるのがこわいのでこのへんで。


さようなら。ごきげんよう(ミワさん風に)。


変わらないのは、こうして駄文を書きつづけていることだけか……(ぼそ)。

金子 由紀子著 「買わない習慣」 アスペクト

以前にも同著者の著作を読んだことがある。あまり押しつけがましくなく、さらりと書かれているところが良く、とても読みやすい。


「習慣」という言葉に惹かれた部分もある。習慣に落とし込めば「買わない」ことも苦にならない。そこに到達するまで大変だとは思うが。


自分も「節約」を生活の中に取り入れられない。(著者もそうなのだそうだ)。家計簿をつけたところで何にも変わらないのだ。しかし、本書の以下の言葉にひかれた。


<非常に単純に言うならば、「節約」が、130円を100円にすることを目指すところを、「買わない」はいきなり「0」を目指します。とても単純でわかりやすいでしょう?「買わない」というと、非常にストイックなことのように思えますが、それを「禁欲」と思わず、「デトックス」と考えてみませんか。>


<体内に蓄積された有毒物質=悪しきムダ遣いの習慣が除去されたら、視界がスッキリして、ほんとうに必要なものだけが見えてくるかもしれませんよ。>


※本書でいう「買わない」は、「なるべく買わない」「極力買わない」である。


買わない習慣を始める前に、やっておきたいこととして、「棚卸し」と書かれている。自分がいったいどれだけのモノを持っているのか、またそれはどんなモノなのかを把握する。それを行うことで、自分自身がいかに豊かであるかを確認するためのものだそうだ。


「買わないもの」は、「つまらないモノ」。「つまらない」というのは、「あなたの暮らしにとってつまらない」「あなたの暮らしを豊かにしてくれない」という意味である。なのでなにをもって「つまらない」とするかは、自分自身だそう。


本書で自分が一番読み応えがあったところが<「買わない一週間」チャレンジレポート>の頁だ。


3人の人が、その日に買ったものを書き出し振り返る。著者のひとことメッセージ付き。他の人の取り組みやら頑張りやら弱さなどを目のあたりにすると、自分だけじゃないんだと励まされる。そして、他人のことだとこうすればいいのに…などと客観的に見られる。お金を使わないために工夫すること。それを楽しめるといいのだと思いました。



以下は心に残ったところを覚書。


<「安くなっているから」「何着あってもいい」「流行だから」「デザインが素敵」などという理由では、買わないようにしましょう。買うときは、あくまで、「その服(靴、バッグ)が、自分と自分の生活を素敵なものにしてくれるか」という視点で選ばなければなりません。その服(靴、バッグ)がどんなに素敵だろうと、それが自分を素敵に見せてくれなければ、意味がありません。服だけ素敵でも仕方ないのです。「買わない暮らし」で流行とつきあうには、よほど注意しなくてはなりません。今、いちばん流行っているモノは必ず、次の瞬間、いちばんカッコ悪くなる運命にあるからです。>


<衣食住以外の購入ガイドライン> (中略)
・美しいもの ・体と環境に悪くないもの ・使いまわせるもの ・人に譲れるもの・売れるもの  ・人生を豊かにしてくれるもの (中略)「一見ムダに見えても、絶対後で効いてくる」という買い物には、お金を惜しまないほうがいいということでしょう。>

<買い物をするときのコツ 五か条  
その1 会話をして買う  その2 同行の人の意見を聞いて買わない  その3 買う予定のもの以外買わない 通りすがりではなく、目的を持って買いに行く 何を何点、という数を守る  その4「買っていい時間」を決める  その5 「買わない」を楽しむためのセリフを覚えておく > 


<今までお金を払って外に投げ出していた「暮らす技術」「生きる技術」を「買わない」ことによって、自分の中に取り戻す、そういうことができるのではないでしょうか。>


安易に買うのではなく、手持ちのモノを活用できないかと考える習慣をつけていきたいなと思いました。


「買うために、買わない」……「本当に欲しいモノを買うために、衝動的にモノを買わない!」ことが肝要だと思いました。
 

小山 薫堂著 「つながる技術」 PHP研究所

サブタイトルに<幸運な偶然を必然にするには?>とある。

非常に読みやすい本。所々著者の自筆と思われるお言葉が、これまた著者特製の原稿用紙の上にさらりと書かれている。字にとても味がある。


心に残ったところを覚書。


<「偶然は、人を選んで起こるからねぇ」「では、どうやったら選ばれる人になれるんですか?」まるで禅問答みたいなやり取りです。でも、彼は僕が求めていた答えを教えてくれました。「それはね、人間力を鍛えることだよ」と。偶然をものにする人たちに備わっている“何か”。それは人間力だったのです。人間力を鍛えると言っても、いったい何から始めたらいいのかわかりませんよね。でも、その写真家は言いました。「ズバリ、見返りを期待せず、社会に貢献することです」たとえば、道に落ちているゴミを拾う。玄関の前を掃いたら、ついでに隣の家の前まできれいにしてあげる。誰も見ていなくても、そんないい行いを毎日コツコツ続ければ、人間力は鍛えられる、だそうです。>



<幸せとは、探すものではない。気づくものである。>



<神様にフェイントをかける。日常生活に小さな風穴を開けるために。>



<十年後のなりたい自分を目指して、今日から歩き出す。>



見返りを期待せず、社会に貢献する…というフレーズから先日読んだ『海賊とよばれた男』の主人公の生き方を思い出しました!

百田 尚樹著 「モンスター」 幻冬舎文庫

読みごたえがあった。これまた満員電車のストレスを解消してくれる本でした!というか、電車に乗っていることすら忘れてしまう。

正直、読みはじめは主人公の女性の語り口と行動にギャップがあり違和感があった。しかし、ある事件をきっかけに彼女が変わる。そこから物語の世界にすっと入っていけた。


自分のコンプレックス(顔の醜形)を克服するために、目的を持ち、ある意味手段を選ばず、力強く邁進する女性。その手段の是非はあるだろうが、その女性の軸がぶれていないところにある種すがすがしさを感じた。


しかし、<美しくなる>という目的を達した<その先>。<その先>が彼女にはなかった。けれども、その目的が達成され、幸福を味わった一瞬。<その一瞬>を味わえたことが、彼女のすべてであり、幸福だったのかもしれない。


人にはいろいろな幸福の形がある。周りの人がどう見ようと、どんなに滑稽だと笑おうと、自分のこだわりを持ちづつけて歩み続ける。そんな主人公の力強さを感じた。


ただ、自分のしてきたことの功罪も十分承知であるがために、そのツケが回ってくることも意識していた。それが彼女の最期に現れていると思った。


個人的に心に残った場面は、主人公が初恋の人英介と再会した時に偶然を装って、好きな本が同じでその詩の一部を二人で暗誦し合うところ(具体的には、井上靖の現代詩「盗掘」)

それは英介でなくても、ウンメイ感じる…かもしれないと思いました(笑)。


整形手術の知識なども読んでいていろいろ勉強になりました!活用する予定はないけれども(笑)。